夜がきた。
時間の話ではない いつか いつからか 身体が夜になっていた。影が消えた後のこと。 夜はなるもの。 予感のようなものはある。 あとから振り返るとの話し。 夜でいるときのことは振り返ることでしか分からない。 ピアノの前で最初の一音を叩いた その少し前には周りはもう夜だったんだ。たぶんあのときだ。 みたいな少しの予感。 そのあとすぐに影は消える。 そのとき身体はまだ夜ではない。 降る雪の中にいるような 小さい黒い粒が す と周りに見える。 いつも夜と出会った最初。粒の形をした夜が見える。止まってみえる。 ように見えるだけかもしれない。 こんにちは。また来たの。また来たよ。来れた。 粒は風の影響を受けない。温度もない。湿度も。感情のようなものはあるように見える。 自分に感情があるからだろうか。 物理の法則に当てはまらない小さい粒が目に見えて輝きだすと。 それは夜で。目が離せなくて。 夜は暗いのに輝いているようにしか見えないのにそれが少しも不思議に感じない。 一つ一つがどこかの夜で。いつかの夜で。夜は今までの夜の記憶を全て分散させて粒でいるのか。 一粒ずつ全部の夜の質量を持っているのか。分からない。 ただ、今までの全ての夜がここにある。自分が夜になるとそういうことは分かるんだ。 自分がすぐに夜になってしまうから。夜のことは分かるんだ。 粒と目で戯れていると、粒と同時に遠くから夜は少しも音をたてず粘菌のように、 少し粘度のある液体例えばコールタールのような質感の、 優しいしぶきの無い波のような卵の白身のような状態で 端から世界を取り込んで周りをすらすらと夜に書き換えていく。 速さも感じないから時間は流れてないと思う。夜。重さはあるように見えるけど。 それは自分が重さというものを知ってるからだろうな。夜。時間は流れていないと思う。 遠くの方から迫ってくるそれを確かに僕は見ているのに 粒に気を取られてやはり後から夜を振り返るまで、ああ、浮遊する夜と足元を書き換える夜は同時に認識は出来ないんだ。それが夜ってことなんだってことが分からないくらいにはその時もう自分が夜になっている。 タンタンタン タンタンタ タタン タンタンタン タンタンタ タタン 身体を投げ出して もう影は消えている時間。 身体はあるんだが。自分が夜になって。 ただ周りから見るとどうだろう。 身体はあるといえるのだろうか。 集まる夜は足元を照らす 輪郭無く実体なく。 照らされた闇で。 夜を怖がらず自分のものにしてしまえ。 深く。 深いところへ。 世界のどこにでもある夜へ。 小さい夜の群れと目が合うと それは眼の中に入り込む。爪の隙間から入り込む。 嫌な感じは何もない。当然そうなるんだ。 雪の一片のような夜に触るとどこもかしこも夜である。 昼には見えないもの。蛾、見える夜。 明けてしまわないように深く夜に身体を喰らわせる。 夜全部身体を食べておくれ。 僕は言葉が書ければいい。夜に食べられた身体で。月の光も届かない。 どこかにはあるのだろうけど。夜全部食べて身体僕を夜にしておくれ。 ただの夜にして、ちぎられた肉も喜びも感じる暇もなくただの夜にしておくれ。 一瞬の夜。身体を這う。どこを歩いても。 吐く息も 声が聞こえても それは今は夜ではないものの遠吠え。 丘の上に一台のピアノと譜面。五線紙と夜の筆。 譜面を見て夜を弾いて夜の続きを採譜して。 明けないで欲しい。もう少し。気付かないでいたい。このまま。暗闇で照らされた見えない身体。 音に意味はない。夜に意味はない。 音を配置するように夜を配置して。 何処に夜を置いてもその間のモノもすぐに夜になる。 夜が夜を呼び僕を夜にする。今までの全部の夜。地球に訪れた夜の一つと全部。 意味の無いものを丁寧に配置するとこんなにも意味を作れてしまう。 ただ、空気が震えているだけなのに。夜。 夜も何かの卵みたいだな 卵になることでことでそれを割って朝が飛び出すのか。割ってもまだ夜。 今は夜。割ったら色が出てきてまた現実が飛び出すのか割ってもまだ夜。 僕は眠ることを世界に託す。暗闇の中で息をしてまた夜の中で今を見る。 おじちゃん
詩集を手に持ったままたまたま駅近くの八百屋で買い物してたら店のおじちゃんが何読んでるの?詩集です。ぐへぇ詩集!頭痛くなっちゃうよ。 こういうときいつも饒舌な僕は語る言葉を何故か持てない。 一番大事なものは言葉で説明できない。沸騰した頭の中に映像と言葉になる前の言葉がたくさん出てきてそれが言葉でとらえられなくなる そのことが今は自分でも可笑しくて。昔とあまり変わらない自分。 世界の詩への位置づけの現実にくらくらしてしまう。 自分が信じているモノを世界は別に相手にしていない。こともある。 変わったのはそんなことが愛おしい。こと。 詩を描いているという行為への後ろめたさ。最近あまりない時間。昔戦った時間。もう何を言われても大丈夫だと思っていた。描くことに疑問を持たなくなったから。ただ描くことが意味になるとして生きているから。 昔はもっと混乱していた。描いていることを指摘されたり詩の意味を怪訝な顔して問われるだけで過剰に体が反応していた。分かってもらえないことは辛いことだった。無理解への憎悪もあった。でももうこの時間も愛おしい。描くことは身体の一部。僕の知らない世界の詩への眼差し。が愛おしいんだ。 詩なんてしょせんそんなもの。どれだけ描いても何か胸を張れるものではとてもない。 詩はそこにあるだけのもの。誰かには意味があるけどほとんどの誰かにとって意味のないもの。 子供に絵本読んでても寝るしさ。最近だったら漫画読んでてもねるし詩なんか読んだら頭から煙出ちゃうよ。 新鮮な野菜は美味しいし新鮮な言葉も美味しいんですよ。 言えた言葉。 世界は言葉で出来ていると思うから、この野菜たちも全部言葉で出来ているかもしれないですよ。白菜にも椎茸にも適切な言葉があるかもしれなくて。しかも今日のこの白菜やしいたけのためだけの言葉が。そういうのを探してるんですよ。 こういう考え方で生きてみるってのも案外面白いんです。 野菜たちも時間をかけて人間がおいしく感じるためにいろいろと進化しているじゃないですか。それと同じで言葉も知らないうちに少しずつ時間をかけて面白くなってるんです。採れたての言葉。どこの畑で。人でたがやかされて。世界に種をまかれて。 言えなかった言葉。 ダメだ。何を言われてもしょっ引かれてしまいそう。 一言で詩を伝える言葉無いものか。なるほどねと笑顔がこぼれる言葉は無いものか。 大袈裟だけどこういうとき世界中の詩人の代表になった気分になる。小さい八百屋で世界会議でも開かれてるみたいに。詩の査問会にでも呼ばれたみたいに。 詩なんてものを描いているとそのうちしょっぴかれてしまうんじゃないか。その不安と恍惚の中、買った白菜と椎茸を煮て食べた。 詩を書いている間に訪れる静けさが好き。誰かに分かるものじゃないかもしれない。 でもそこには気持ちいいほど何もない。沢山の意味に囲まれて意味の向こうに手を伸ばす。何も意味のない空間。意味がないことをしているから、しどろもどろになってしまうんだろう。身体があるからそこに応えはあると思う。詩の答えは身体にある。だから、おじちゃんの前で僕がたくさんしゃべるよりこの身体からこぼれる振る舞いが言葉になって届きますように。いつか読んでもらえますように。 すぐ寝てくれてかまわない。言葉が眠りに連れてってくれるなんて。自分の言葉がその日最後に見た言葉だなんてこの上の無い幸福だ。 メロディが何かの卵だとしてそれを産むあなた方は何なのだろう? コトバは卵を温めて孵化させることが出来るだろうか。 メロディは何かの卵。何が孵るか分からないけど。 メロディは何かの卵。落として割れて台無しか。立てて世界を変えるのか。 メロディを言葉は遠くに連れていくのか。孵した卵はまたメロディを生むのだろうか。 大切に 扱う 大切に触る それは雑でもない丁寧過ぎない 親密さ。 夜を包む言葉のように。 入りましょうよ。
暗闇の男にまた誘われた。 月がくすくす笑う夜には大体この男が現れる。 暗闇の男。細身でキザで緑のマントに赤い指。 知らないマンションのなかを歩く。。 各ドアの前にたち、各階に立ち。 それを何戸も繰り返す。 音が聞こえてくる。しらない音。月のうめき声のような。 また暗闇の男。別の暗闇の男。青いめがねに背高帽子。笑顔に鷲鼻冷たい呼吸。 こいつがでたらもう終わり。今日の夜はもう終わり。 後ろ足で全身を支えぬけるか、業。 右耳は静かに日を湛え揺らす王。 いきなり顔を舐められたい。出来れば好みの女の子に。
バスを待ってる時間とか。パスタをゆでてる時間とか。 知らない人でも構わない。 野菜を買ってる時間にも、ノートを選んだレジででも。 知らない他人にいきなり顔を舐められて、そのあと一瞬目が合って、何もなかった知らない他人に戻って欲しい。 人と人がこんにちわした時、僕はそこに本棚が二つあるということにしている。
その人が今まで読んだ本が全て並んでいる本棚。 2つの本棚が似ていても似ていなくても本棚同士が挨拶してる感じがとても楽しい。 いくら趣味が似ていようが「生まれてから今までに読んだ本の全部が同じだ」という人間はいないだろう。 本棚同士の交流の多くは言葉を使った会話という方法でなされる。 意識はしてなくても、今まで読んだ身体の中にある本たちが何かの影響をその人の身体に与える。身体は言葉。出てくる言葉は身体そのもの。 僕の本棚にあなたの本棚にある本を並べて 僕の本棚にある本をあなたの本棚の空いてる段に忍ばせる。 読んだことのない本が他人と接して自分の本棚に収まっていく。 僕とあなたの本。あなたと誰かの本。僕と誰かとあなたの本。人は本。 何人も集まれば本棚がたくさん。世界は移動する図書館。 誰かの本棚に入った、僕と会うことで置かれた本が、その誰かがほかの誰かに会うことで違う誰かの本棚にも収まって。 あるとき自分の本が自分の元に帰ってくることもある。 誰かの手に渡った僕のことが描かれている、でももう僕のことだけが描かれているわけではない僕の良く知る知らない本。 そうやってたくさんの本が身体に所蔵されていく。人の数だけ生まれる本。 誰かと交わることで新しく生まれた似ているけど違う本。 本棚同士が出会い、沢山の知らない言葉が生まれて、 たくさんの本がある世界で、僕は今日も言葉を描く。 この言葉は昨日までどこにも無かった。たくさんの本棚との交流で生まれた本棚でもあり本でもある僕のこの言葉。 図書館の蔵書は減ることを知らない。 大勢でお酒を交えて交流する。
目の前にいる人間は 42年前に生まれた。 隣の人間は 37年前 その隣は32年前 少し離れた席に座る あの人間は 20年前に生まれたという。 それぞれにそれぞれの時間が流れた結果今日ここにいる。 僕はそれにあたふたし照れを隠せず下を向く。 周りを時間に囲まれた。 たった一人。この人間だけでも42年。自分の知らない時間が流れたんだ。 42年生き抜いた存在との対峙。 時間を証明する身体。 高揚する瞬間。 どこから何を聞いていこう。42年の知らない時間。この存在。人間。 興味が止まらず武者震い。目の前に居る今日まで生き残った人間。 さっきまで知らない人間と目の前にあるそれをこれから知る時間。 最初の瞬間はもう来ない。この瞬間はもう来ない。 それがこんなに大勢いるなんて。 宴が終わり、全員に興味を持って結局誰とも仲良くなれずで終わった35年前に生まれたこの存在、そう「僕」は、帰りの電車でさっきまで目の前にあった膨大な時間の総和に足を取られて少しふらつく。 何気ない会話で仲良くなっていく人を思い出し、不完全燃焼な言葉をぶら下げ、酒にぶら下がったことを反芻し。 大勢とお酒を交えて交流すると思うこと。 次回は今日来ていたあなたと二人であなたの時間を楽しみたい。 この後毎日1人ずつ、今日来ていた別のあなたと別の言葉で、 僕の知らない時間を教えて欲しい。 あなたの生きた何年をそのまま全部知ろうとすると、あなたが生きた年だけかかる。 例えば42年間。それを一夜に凝縮しませんか。交歓。 |
詩描いた詩を載せていきます。過去のものも載せていきます。 アーカイブ
1月 2021
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