どんどん相手の顔が驚いていくのを妙に冷静に見ていた そりゃそうだよな。 こんなに明るい口調で話しながら 涙流しているんだから 泣く話じゃないのに これはいったいなんの告白なんだ でも明るい口調も涙もやめられない せめてこのカタマリの一部だけでも伝わるように 一体僕はいつまで種を蒔き続ければいいんだろう。 片目の農夫の夜は言った。 種は夜になっているよ。たくさんの夜になっている。 収穫できるものもしたものもあるけどさ。 たくさんの夜があるけどさ。君みたいなのもいるけどさ。 農夫の夜は彼だけの手つきで種を蒔いた。 夜が動いて8つ花が開く。彼の眼は二つになっていた。 こういうこともあるけどさ。 私も種を蒔く。 (謎夜 9293夜目より抜粋) 空を見ると たまに赤の産地が見える 空の上に浮いている赤い大きな島のような場所がそれだ。 空の背骨の1つではないかといわれている。 全ての赤は最後にあそこに還るとされる。 (謎夜 4019夜目より抜粋) 崖にある魚に会った
魚は春を孕んでいた 魚の中の春が生まれるまで 僕はじっと魚を見ていた 風が何度も吹いて 雨が何度も降った 崖に魚はずっとある 僕もここにずっとある。 ゴトッと音がして 魚は春を生んだ 音に気をとられて 生む瞬間は見ていない。 春から香りや色や温度が広がっていった 私はそれを見ていた。 風が吹いても 雨が降っても 春だった 魚は色を変え 崖からはいなくなった 私はまた歩き出した。 街に出た 街は音が無い 音を探すと 私は 窓に写る 羊 に会った 羊は窓の中にある 羊は夏を孕んでいる 羊の中の夏が生まれるまで 僕はじっと羊を・・・ (終) 月の目を持つ龍が居た。
その龍が何を目として生まれたか。 龍の意味はそれで変わる。 龍に決まった身体はない。 カタチの無い大きなものが龍になる 雲でも雨でも土でも火でも時間でも 風でも森でも岩でも海でも人でも龍になる。 月の目を持つ龍は食む 雲を身体に 空を。 螺旋状に回りながら雲の身体が消えるまで。 優しく踊り優しく光を撒き散らす。 月の目が龍の息吹を保つまで。 私は龍の目になりたい。 龍の目でものをみて 大きな身体でうねりたい 私は渡したい。龍の身体を。意思を。全てに。 身体がなくても声がなくても、 私が木のときも光のときも水のときも わたしは龍に身体を渡す。私は龍の身体を渡す。 私は必ずあなたに龍を渡します。 それは私のなかにある光。 光光。あなたを照らせ。 私の身体が龍のうち、私はあなたを私で照らす。 身体がなくても声がなくてもとっておきの優しさであなたを照らす。 あなたの隅々全てまで夜の隅々全てまで。あなたを照らす龍になる。 (謎夜 9319夜目より抜粋) |
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1月 2021
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